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二席

小規模旅行業者の生き残りとめざすべき方向性

加藤弘治

 

はじめに

経済のサービス化が急速に進展するなか、世界的に観光産業の発展には目を見張るものがある。1993年の世界の観光産業の総生産額は、3兆4千億ドル(約360兆円)で、世界の総生産の1割強、世界の全雇用者数の1割強を占めている。また、我が国における観光関連の総消費額は、24兆5千億円、総従業員数は190万人にも及んでいる。
観光産業は、旅行業・運送業・宿泊業・旅行関連業等からなる巨大な産業であり、平和産業、情報産業ともいわれている。「観光」は、21世紀の経済を活性化させ牽引する産業として、いま大きく注目されている。平成7年には、観光政策審議会が「我が国はものづくり立国からゆとり観光立国へ転換する必要がある」と政府に答申、政府は具体的なアクションプログラムの作成に取りかかっているところである。
観光産業の中で、顧客との接点が最も多く、その中心的な役割を果たしている旅行業者に焦点を当て、その過去や現状に触れながら、現実の厳しい生き残り競争のなか、特にその零細性に注目して、小規模旅行業者の役割や将来的にどのような方向をめざすべきかについて考察してみることにしたい。

 

旅行業の推移

若者の夢やエネルギーが成長を支えた旅行業界
我が国の海外旅行の自由化は昭和39年、東京オリンピックが開催された年であった。折からの高度経済成長の波に乗って国民の中に観光ブームが湧き起こり、ジャンボ機の就航やパッケージツアーの出現等の後押しもあり、海外旅行は限られた一部の裕福な人だけのものに止まらず、徐々に一般大衆にまで浸透、強い需要に支えられて順調にマーケットが拡大して行った。
昭和39年に12万人であった日本人の海外渡航者数は、下記の[表1]の通り、平成7年には1,530万人となり、僅か30余年で128倍と急激に増加している。自由化の当初は、まだ旅行業としての確立された地位はなく、航空代理店とか旅行代理店と称して運送業者や宿泊業者の代理を行う小規模事業者がほとんどであった。運送産業や宿泊産業と比較しても、旅行業者は、産業としての規模の零細性から社会的な評価も低く、旅行会社でなく「旅行屋」と呼ばれ、軽薄短小のイメージで軽視される風潮にありながらも、成長につぐ成長を続けたのである。

 

表1 日本人海外渡航者数と訪日外国人数の推移

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(法務省出入国統計)

 

 

 

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